特別対談・特別寄稿

第31回日本医学会総会2023東京への期待

井村 裕夫先生

井村 裕夫(第29回日本医学会総会会頭)

日本医学会総会は、明治35年の「第一回連合医師会」に始まって、戦後の混乱期の一回を除いては、4年ごとに開催されてきた、日本の医学界にとって大変重要な行事であります。それは医学の目覚ましい進歩を総括するとともに、一般の方にもそれを理解してもらう大変良い機会となるからであります。2015年に関西地区で医学会総会を開催した時には、一般向けの展示と一部の講演は神戸で、企業向けの講演は大阪で、医師向け及び一般向けの講演と学術の展示は京都で開催しました。大変多くの参加者があって、成功であったという評価を多くの方から頂きましたのも、医学の現状をできるだけ多くの人に理解してもらえるよう努力したからであると考えられます。

明年4月開催予定の第31回日本医学会総会は東京を会場として、春日会頭、門脇準備委員長などのリーダーシップのもと「ビッグデータが拓く医学と医療―豊かな人生100年の時代を求めて」というメインテーマが決定され、着々と準備が進められています。このテーマが決定された背景には、日本の社会が急速に少子高齢化に向けて進んでいること、多くの人が健康な長寿を達成することが、人口減少の進む我が国にとって重要であること、それを実現するためには蓄積されつつある医療、健康診断などのデータの活用が不可欠であるためでありましょう。

この総会の準備中に、思いもよらず世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミックという予期しない事態に直面し、多くの死者が出ました。しかし医学の進歩によって、短期間に新しいタイプのワクチン、メッセンジャーRNAワクチンが作られ、何とか対応する方法が見いだされつつあります。我々は改めて感染症がいつ起こるかわからない病気であること、それに対応するための研究と対策を常に怠ってはいけないことを再認識しました。それと同時に、メッセンジャーRNAワクチンの開発には、およそ30年にわたる地道な研究と、きわめて多くの研究者のたゆまぬ努力があったことも初めて知りました。まだ完全には先が見えていませんが、こうした技術の開発によって、この感染症に対する対策が進みつつあるように思われます。明年4月には東京に多くの人が集まって、医学会総会が盛大に開催できることを、心から期待しております。

略歴

昭和29年  3月 京都大学医学部医学科卒業

昭和46年  9月 神戸大学医学部教授

昭和52年  4月 京都大学医学部教授

平成 元年  4月 京都大学医学部長

平成   3年 12月 京都大学総長

平成   9年 12月 京都大学名誉教授

平成10年  6月 科学技術会議議員

平成13年  1月 総合科学技術会議議員

平成16年  1月 独立行政法人科学技術振興機構 顧問

平成17年 12月 独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 首席フェロー

平成23年  4月 第29回日本医学会総会2015関西 会頭(平成27年4月13日閉会)

平成27年  4月 関西広域連合 顧問(現職)

平成30年  5月 日本学士院 幹事

令和 元年  10月 日本学士院長(現職)

平成   3年       日本医師会医学賞

平成17年      瑞宝大綬章

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