役員インタビュー

山内 敏正 幹事長

若手の医師や医学研究者向けのセッションが多数
広い知見を得てほしい

これまでの伝統を鑑み、その上で未来を志向していていくことに意義

山内 敏正 幹事長

──山内先生で役員インタビューは完結となりますが、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
まず、すべての先生方にお聞きしてまいりましたが、先生にとって医学会総会の意義や思いについて聞かせいただけますでしょうか?

──山内先生で役員インタビューは完結となりますが、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
まず、すべての先生方にお聞きしてまいりましたが、先生にとって医学会総会の意義や思いについて聞かせいただけますでしょうか?

はい。日本医学会は141の学会が集まって組織されていますが、それが4年に1回学術集会を開き、基礎医学、臨床医学、社会医学それぞれの分野の現状の把握をし、これからの方向や発展を認識するためのものです。医師は卒業してから実地の医療に携わる中で専門分化していく傾向にありますが、医学会総会は横断的に幅広く学んだり考えたり議論したりすることができるのが第一かなと思っております。

明治35年に始まって今回が31回、120周年という伝統があります。これまでの伝統を鑑み、そのうえで未来を志向していていくことに意義があると思います。もう一つは、医師、研究者の方々それからメディカルスタッフの方々を中心に医学生も含め非常に幅広い勉強の場の提供を考えており、35,000人の参加を目標にしております。一般市民、社会の方々にも参考にしていただける一般公開講座や展示博覧会も企画しています。ご自分やご家族の健康には大きなご関心があると思いますので、医学医療の現状やこれからどうなっていくのかということについて一緒に議論ができたらよいな、と考えているところです。

医学会総会というと、従来は指導的立場におられる方々が集まって大所高所から議論するといったイメージもあったかもしれません。第29回や第30回の最近の総会で医学医療全般の問題を議論する傾向になってきましたが、特に今回は会頭、準備委員長の強い想いがあり、医学生を含む若手医師や女性医師を含むダイバーシティを考える企画を立案しました。それが【U40(under 40)】の若手の医師、研究者や【ダイバーシティ推進委員会】という形になって意欲的なプログラムや展示に具現されています。これは画期的な試みと言っていいのではないかと思います。

そして、幸か不幸か“ハイブリッド開催”を余儀なくされていますので、今まで距離的、時間的に参加がかなわなかった方でも気軽に自宅や勤務地で参加できるという利点があります。言ってみれば今回の総会は「敷居の低い」総会になっている気もします。

──先生ご自身は、今まで医学会総会に参加されていらしたんでしょうか?

髙久先生が会頭をされた時に実務レベルのお手伝いをさせていただき、スタッフとして仕事をしながら講演を拝聴しました。矢崎先生が会頭をされた時は準備の段階で委員を務めさせていただいていましたが、東日本大震災の影響で開催が不可能になってしまいましたので、今回の東京での開催はそれ以来ということになります。

前回の名古屋の時には、現地で体験して規模の大きさに圧倒されました。特に、開催前日の会頭招宴や開会式は想像以上の人数の参加を目の当たりにし、身の引き締まる思いがしました。今回はwithコロナで大勢集まることが難しい状況ではないかと推察していますが、身の安全を第一に考えながら充実した総会にしたいと思います。

WEB会議の良いところを活かして幹事長業務を遂行

──今までずっと委員長にインタビューさせていただいてきましたが、今回は幹事長というすべての委員会を横断的に纏めるという役割を担っているということで、その点についてお話しをお聞かせください。

ご存じのように今回の医学会総会には10の委員会があります。委員長の下にはそれぞれ幹事がおかれていて、幹事長の役割はそれぞれの幹事の先生方とよく連携を取って委員会をスムーズに運営するというものと思っていました。しかし、今回はwithコロナが避けて通れない状況で、準備が始まった直後から委員会や会議はすべてがWEB会議になり、幹事同士のつながりもオンラインになっています。

WEB会議の良いところは、気軽にオンラインで参加できるので、各種の委員会のありようが良くわかります。また週1で行われる事務局のミーティングや2週に一度開催される会頭や準備委員長から直接ご指導をいただける会議などが、オンラインであるがゆえに部屋から参加できるという点で全体の把握に有効です。

最高の意思決定機関である組織委員会も、学会などの出張先からでも参加できるので出席率は良いですね。

──この3年あまり医学会総会の運営に携わっておられて、先生にとっての利点などがあればお聞かせください。

今回の役割は幹事長ということで潤滑油的な要素も含んでおり、各先生方との調整なども重要な任務です。今までも糖尿病学会や肥満学会などで経験はありましたが、今回のように準備期間も長く、規模も分野も非常に大きく広いものを経験したことはなかったです。またコロナ禍にあり準備も気を遣うことが多いですが、その分連帯感といいますか、お互いの信頼関係が醸成されて私にとっては大きな財産になったと感じています。

──医学会総会を運営する上で、参加していただく方の人数は大変大きな要素だと思いますがその点は如何ですか?

はい、これが最大のポイントです。従来ならば学会の時や各種の会議の時に参加を呼び掛けることができたのですが、この2年半、会議はほぼすべてがWEB会議となっておりますので直接呼びかけることができません。先程も申し上げましたように遠隔地からでも参加できるよう配慮したり、若い層向けの企画を充実させ、また参加しやすいような登録料を設定していますので、是非関心をもっていただきたいと願っています。SNSなどの手段も充実させて広く知っていただこうと考えています。

2型糖尿病発症予測研究が進行中

山内 敏正 幹事長

──この機会に是非沢山の方々に知識を深めていただきたいですね。さて、ここで山内先生ご自身のご研究について教えてください。

私自身は門脇先生(準備委員長)からご指導を受けてきましたが、一番最初はインスリンシグナルすなわち細胞内の情報伝達について研究を始めました。ちょうどノックアウトマウスが開発され、個体レベルで遺伝子の変化を人工的に外から操作して、それが糖尿病の発症につながるということが解明されてきたときに研究を始めました。私より前の先輩の方々はどうしても細胞レベルの研究が多かったのですが、ノックアウトマウスは個体レベルでの機能解析ができますのでそれを活用した解析をさせていただいていました。最初はそのシグナル分子そのものの機能を解析するということをやっていました。

肥満がインスリン抵抗性を引き起こす原因を解析した結果、骨格筋や肝臓等のインスリンの標的組織において、本来は脂肪のない細胞内に中性脂質が異所性に蓄積して、酸化ストレスや慢性炎症にかかわるようなシグナル経路が活性化されて、インスリンの細胞内シグナル伝達が損なわれることが分かってきました。肥満に伴って全身で慢性炎症が引き起こされたり、細胞内で中性脂質や酸化ストレスが増加する原因を探索した結果、肥満に伴って脂肪細胞が肥大化し、アディポネクチンが低下することが主因の一つになっていることが分かってきました。アディポネクチンは、腹八分目のカロリー制限や運動をした場合と同じような効果を全身に与えることも明らかとなり、アディポネクチンの代わりをする飲み薬の種も見出しています。

ビッグデータの活用の1つとしまして、全ゲノム解析を数百万人規模で行い、糖尿病等の疾患にどのくらいの確率で罹るかが分かるところまで医学が進んできました。これまでであれば、父母の片方に2型糖尿病がある場合、その子どもである兄弟姉妹は、約50%が2型糖尿病になることが分かっているのみでした。一人ひとりの全ゲノム解析情報を有効に使えば、兄弟姉妹各個人は、30%, 40%, 50%, 60%, 70%の確率を持っていることが分かるところの近くまで来ている、という状況です。

今後の発展としましては、いつ、どのようなタイプの2型糖尿病になるのか、インスリン分泌が低下するタイプなのか、インスリンの効きが悪くなる抵抗性のタイプなのかが分かれば、タイプに合わせて予防法を選択することによって、効果的な予防が可能になると思います。

また、いつ発症するのかが予測できることも重要で30年間の間に70%の確率で2型糖尿病が発症すると予測できても、なかなか予防策を講じられない場合も、この1年間の間に70%の確率で2型糖尿病が発症する、と予測できれば、予防策を講じるようになる等の違いが生じると思います。いつ発症するかを予測するには、医工連携によってウェアラブルデバイスを開発し、生体計測を1分子レベルでモニターする科学技術の革新と、天気予報等と同様に、数理科学等の分野横断的な連携が鍵を握ると考えます。東京大学はニーズとシーズがマッチし易い環境にあり、相乗効果を発揮できるよう努めたいと思います。

身近になった医療・医学を、正しく掘り下げていただくまたとない機会

山内 敏正 幹事長

──読者の皆様の息抜きとなるようなご趣味のお話も伺っております。

──読者の皆様の息抜きとなるようなご趣味のお話も伺っております。

今まで掲載された副会頭や委員長のご趣味を見ていますと、バレーボールをなさっていた方が多いので驚きました。松藤先生、岡野先生、北川先生、天谷先生とか。年齢の近い方は大学対抗で好敵手だったりしていますね・・・実は自分もバレー部だったんですよ(笑)

先輩の先生方は長身ですからスパイクなんかがお得意だったようですが、自分はセッターでした。

──今は何かスポーツはおやりになっているんですか?

──今は何かスポーツはおやりになっているんですか?

今は全然できていないんです。糖尿病が専門ですから糖尿病の患者さんに運動をお勧めしているように、本来は自分が率先して運動しないといけないんですけど、階段を昇り降りするくらいしかできていないですね。

──音楽とか本と文科系のご趣味は如何ですか?

音楽ですかー。自分自身はあまり得意ではないんですが、私の子どもが得意なので、その演奏を楽しみにしています。

あとは、スマホの中に読みたい本を入れておき、ちょっとした隙間時間に読んでいます。最近はコロナの影響もあり海外出張はあまり行けていませんが、入国審査などで長い行列ができ30分とか1時間とか待たなくてはならない時があります。そういう時に読みたい本がスマホに入っていれば案外早く順番が回ってきた気になります。便利な世の中になったと思います。

それから、「AI将棋」に興味を惹かれます。Googleが開発したAI、AlphaGoが碁で人類の世界チャンピオンに勝った時には衝撃を受けましたが、上手く活用することによって、人類の隠されたポテンシャルが開放され、イノベーションに繋がることもあるのではないかと直感しました。プロの棋士の方も強くなるためにAIを活用し、定石が変わったこともあると聞きます。

AIは医学・医療の発展にも実際に役立っています。AlphaGoは、AlphaFoldシリーズとして進化し、それまで極めて困難とされた複数の分子の複合体の立体構造の予測を可能とし、創薬の分野等でも重宝されています。

──最後に、若い研究者に一言お願いいたします。

今回の医学会総会は冒頭でも申し上げたように、若手の医師や医学研究者に照準をあてたU40企画などやダイバーシティを取り上げたセッションが多数あります。専門分化する傾向にある昨今ですので、この機会に参加して広い知見を得ていただきたいと思います。

──メディア向けにもお願いします。

非常に身近になった医療・医学を、正しく掘り下げていただくまたとない機会ですので、市民公開講座や丸の内界隈で開催される博覧会に一人でも多くの方にご来場いただけるよう、ご協力をお願いしたいです。

──お忙しい時期にお時間をいただき誠に有難うございました。

聞き手 長瀬 淑子(事務局アドバイザー)

ページトップページトップ