役員インタビュー

松藤 千弥 記録委員長

略歴

1985年 東京慈恵会医科大学医学部 卒業

1989年 東京慈恵会医科大学 栄養学教室 助手

1995年 東京慈恵会医科大学 講師

1996年 東京慈恵会医科大学 助教授

2007年 東京慈恵会医科大学 分子生物学講座 教授

2013年 東京慈恵会医科大学 学長

初の試み、会務記録のデジタル化
WEBで見ることができるようになります

通常の学会では経験できない華やかな雰囲気も楽しんで

松藤 千弥 記録委員長

──総会まであと1年に迫ってきました。2月1日から登録も開始され、準備が着々と進んでいますが、記録委員長の責務を担われている松藤先生にお話を伺います。

──総会まであと1年に迫ってきました。2月1日から登録も開始され、準備が着々と進んでいますが、記録委員長の責務を担われている松藤先生にお話を伺います。

委員長を拝命するのは今回初めてですが、学長になってからの2回の総会では登録推進委員として学内の登録を推進していました。前回は名古屋に招かれ、開会式にも出席させていただきました。

医学会総会は各学会の総まとめ的なものですね。学問上の役割は各学会が果たしていますが、総会は今医学・医療の世界で行われていることを広く見聞きできる場所と捉えています。多くの参加者が集い、これまでの医学会総会ではノーベル賞受賞者の講演があるなど普通の学会にはない華やかな雰囲気があり、それが楽しみということもあります。

──4年に1回の開催ですので「医学のオリンピック」という方もいらっしゃいます。

──4年に1回の開催ですので「医学のオリンピック」という方もいらっしゃいます。

そうですね。特徴的なのは各総会のテーマが医学・医療の流れを映し出し、未来を予見していることです。今回の「ビッグデータが拓く未来の医学・医療」も医学と科学技術の進歩をふまえ、現在私たちが直面している感染症だけでなく、未来の健康課題にも大きな力を発揮するタイムリーなテーマだと感じます。

──先生のご研究分野は「基礎医学」で、臨床分野に比べるとチームで進めるというより孤高の研究者がそれぞれ真実を突き詰めているというイメージがあります。“視野を広げる”という意味でも医学会総会を活用していただけるでしょうか?

そんなことはないんです。今の医学研究では基礎分野でも一人で行う研究は少なく、ほとんどがチームを組んで研究しています。医学に関する問題は臨床から出てくることが多いので、基礎と臨床が一体となって研究を進めるスタイルが増えてます。

質の高い研究をするために、組織や分野の垣根も越えていくのが普通の形なので、そうした意味でも広く情報を集め交流を深める機会として、医学会総会は大きな意義を持つと思います。

子どもに向けて【漫画】で総会のコンセプトを届けます

──そうなんですね。今回は記録委員長としての任に当たられていますが、具体的なお仕事についてお教えください。

一言でいえば、会の記録に関することはすべてやるということですね。中心となるのは記念書物の企画と制作です。今回も岩波新書で発刊の予定で、この作業が一番時間と労力を要します。

あとは会誌と会務記録です。

──記念書物といっても「医学」には様々な分野がありますし、人材の層も厚いのでテーマ選びや人選にご苦労なさったのではないでしょうか?

全体のテーマは、自然と総会のメインテーマと基本構想に沿ったものになりました。各章の内容や執筆者を春日会頭、門脇準備委員長、組織委員会とも相談しながら決めてきましたが、春日会頭は強いリーダーシップで導いてくださいました。

インタビュー形式で行われてきた執筆も、現在は編集作業に移っているところです。

──良いものができそうですね。

はい。今まで刊行された記念新書も素晴らしいですが、きっとそれに負けないものができると思います。これまでの記念新書は、医学部の入試の小論文や面接に役立つということで、医学受験生には“人気の書”になっているそうですよ。

──そうなんですか! 『会務記録』も将来、医学会総会を担当される方々に大変有用なものですね。

会務記録は各委員会の活動記録が主体で、その他の部分は事務局が記録してくれるので、記録委員会の仕事はそのとりまとめです。今回の会務記録は、印刷物はやめて、各委員会の活動をWEBに掲載して蓄積していくことになりました。会誌は学術集会や展示会の情報を中心に編纂し、総会の参加者に頒布するものですが、重くて持ち運びに不便だし、リアルとバーチャルを組み合わせるハイブリッド開催の趣旨に合わないので、今回は電子版をWEBでご覧いただく形式にすることになりました。

──それは英断ですね。

このようにデジタル化すると記録委員会としては仕事が少なくなりますので(笑)、将来、医療者になる、医療の受け手となっていく若い世代に、何かできないかと考えました。今回の医学会総会のコンセプトを届けるため、子どもさん向けの【漫画】を制作しようと案を練っています。小学生くらいを対象とする予定です。

総会の基本構想にもある「デジタル革命」は、実は小学校の教育にもどんどん入ってきていて、コロナがそれを加速しています。でもそれが医療とどう結びつくのか・・・また「ビッグデータ」というキーワードが自分たちや身近な人とどんな関係があるのか・・・、そんなことを伝えたいと思っています。

一番頭を悩ませているのが「人生100年」の概念です。子どもたちは長生きという概念をまだ持たないし、“100年生きる”といわれてもね・・・(笑) どう伝えるか、切り口を考えるのが難しいです。

超高齢社会でますます重要になる栄養学研究

松藤 千弥 記録委員長

──先生のご専門は分子生物学ということですが、栄養学教室にも在籍されておられましたね。

私は学生の時から「栄養学」の研究室に出入りし、食べ物からできるポリアミンという分子に注目して、細胞の中で増えすぎてもいけない、少なすぎてもいけない、ちょうどよい量になるように調節される仕組みの研究に参加させてもらいました。

慈恵医大の創設者・高木兼寛は、当時国民病として恐れられていた「脚気」が偏った食事によっておこり、正しい食事を摂れば予防できることを発見し、その後、脚気はビタミンB1の欠乏症であることが明らかになりました。この経緯から、慈恵医大は栄養学を重視する伝統があり、当時としては珍しい「栄養学教室」があったんです。

しかし、なぜか教室名が「栄養学」から「生化学」に、さらに「分子生物学」に変わってしまいました。私の研究はずっと変わらないのですが(笑)

──先生のご研究はサプリメントや健康食品などにも関係があるのでしょうか?

私の研究そのものではないですが、関係はあります。

ポリアミンは体の中ではアミノ酸からできますが、腸内細菌もたくさん作っています。ポリアミンは若い人に多く、年齢が上がるにつれて減っていくので、老化とも関係があります。

それから、いろいろな病気の元になる炎症を抑える働きがあります。ポリアミンの不足を補うようなサプリメントが売られていますし、腸内細菌にポリアミンを作らせるような商品も開発されてます。

──食事のことにも詳しいのですね。

最初に入ったのは栄養学教室でしたが、私の研究テーマは食事そのものではありませんでした。でも、学生の教育に長年携わり、生化学とともに栄養学の授業を担当したところ、大学生に不足しがちなビタミンのことや食べ過ぎてしまう訳、美味しいということの意味、などを教えるのは生化学の授業よりずっと楽しかったです(笑)

──最近は食の乱れを憂慮する方も多いようですが、バランスや栄養不足などでご心配はありますか?

それは大いにありますね。ただ、近頃はテレビやインターネットから多くの情報が得られますし、学校でも食育に力を入れているので、昔に比べれば食の知識は普及していると思います。

その一方で、以前とは異なる食の問題も起きています。例えば独居のお年寄り、特に料理を担当していた奥さんに先立たれた男性のコンビニ生活によって、食のバランスが崩れること・・・などです。

──今の医学部で栄養学を研究する医師は沢山いるのでしょうか?

非常に少なくなっています。今の医学部で基礎研究を志す研究者が減ってますので栄養学も御多分に漏れず、です。今では、栄養学者は医学部出身というより農学部や家政学部などで育ててくれて、そういう研究者が医師と共同して研究するスタイルが多くなっていると思います。

ただ、糖尿病や腎臓病の患者さんを診るには栄養管理が必要ですし、外科の術後の栄養管理は大切と実感し、そういうところから栄養学の道に入ってくるケースもかなりあるんですよ。『臨床栄養学』ですね。糖尿病や高血圧の治療は、注射や薬ではなく、まず“食事”ですから。

健康で長生きするための医療の最先端を学べる場、
ぜひ子どもたちにも来場してほしい

松藤 千弥 記録委員長

──学長としての激務でお時間は取れないと思いますが、ご趣味、リフレッシュ法をお教えください。

──学長としての激務でお時間は取れないと思いますが、ご趣味、リフレッシュ法をお教えください。

私は大学ではバレーボール部で、広報委員長をされている慶應の岡野栄之先生とは同学年でライバル同士。毎年春、夏、秋と戦っていました。岡野先生が慶應バレーボール部の部長になられた時には私も部長をしていたのでチームの引率で試合に行くと、そこでまた会いました(笑) 今は実際にバレーボールをプレイすることはありませんけどね。

慈恵医大は槍ヶ岳に診療所をもっていて、「天空の診療所」というタイトルでテレビドラマになったことがあります。昨今は、老若男女沢山の方登山を楽しまれるので、シーズン中は診療所にいつもボランティアで3人くらいの医療者や医学生が詰めています。私も学長になってからコロナの前まではほぼ毎年参加していました。

槍ヶ岳は3000メートル級の山なので、もっと楽に登るために日頃から走るようになりました。そうしたらだんだん距離が伸びて、今では20キロくらい走れるようになって。都心では皇居の周辺は混んでいるので、隅田川を越えてお台場まで走ることが多いです。

以前はほとんどの時間を仕事に割いていましたが、学長になってからは倒れられないので、健康のために時間を使うようになりました。

──音楽の方はいかがですか?

音楽も好きでよく聴きます。ジャンルは特になく何でも好きですが、しいて言えばジャズとクラシックです。よく聴くのはモーツァルトとかベートーベンとか定番の曲。学生の音楽部交響楽団や合唱団の演奏会はよく聴きに行ってますよ。

──最後に、先生から参加者や参加を検討されている人々へのメッセージをいただけますか?

成人病がご専門の春日先生が会頭ということもあり、健康で長生きするための医学・医療の最前線をお伝えできるよう全力で準備しています。きっと得られるものがあると確信していますので、ぜひとも足を運んでいただきたいです。これからの社会と医療を担う子どもさんにも大勢来ていただき、自分や家族の健康のことを考えるきっかけにしていただければうれしいです。「病気になる前から、あるいは子どものうちから病気に備えるのがとても大切」というのが、最新の医学の知見です。

メディアの方に対しては、以上のような私たちの思いを社会に届けていただき、少しでも多くの方に参加していただけるよう、ご協力をお願いいたします。

──本日は楽しいお話をお聞かせいただきありがとうございました。

聞き手 長瀬 淑子(事務局アドバイザー)

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