基本構想

地球規模では、温暖化とそれに伴う気候変動、環境破壊やグローバル化に伴う新型コロナウィルス感染症に象徴される新興再興感染症の脅威、人口爆発と少子化、豊かさと貧困の格差拡大と非感染性疾患(NCD)の爆発的な増加により、地球と人類の持続可能性が脅かされ、その解決が喫緊の課題となっています。一方、AI、IoT、ロボティクスなどの技術革新を核とした第4次産業革命が進行し、社会は歴史的な転換点を迎えています。それに伴い医学・医療も大きく変わろうとしており、未来の医学と医療のあり方を考える必要があります。

我が国は、国際的に例を見ない少子超高齢社会を迎えています。戦後日本の高度経済成長に支えられた医学・医療の進歩は、人生 100 年時代と表現される新たなステージに結実しています。他方、それを支えるべき医療、介護の経済基盤は危機に瀕しています。このような矛盾を内包した転換期において、人々の願いは、豊かで人間らしい人生 100 年時代を全うすることではないでしょうか。このチャレンジに向けて地域包括ケアシステムをはじめとする医療介護体制の構築、AI による診療支援や遠隔診療による医療の効率化、医療・介護ロボットの実装など、持続可能な新しい医療システムの構築が求められています。まさに、世界の健康長寿先進国としての日本の役割が期待されます。

データ駆動型サイエンスは医学・生命科学を変革しています。桁違いに容易に得られるようになったゲノムデータ、マルチオミックス解析や一細胞解析、クライオ電子顕微鏡、複雑系に対するシミュレーションなどのイノベーションにより得られるビッグデータを統合し、生命の本態やその多様性を理解することが可能となってきました。メカニズムに立脚した多様なモダリティからなる創薬とワクチン開発、ゲノム編集、遺伝子治療、細胞治療、臓器再生など新しい医療技術の開発が進んでいます。イノベーション立国を目指す我が国にとって健康長寿に貢献する医療技術開発は最重要課題の一つです。医療技術の基盤になるのは基礎医学を包含する基礎科学であり、その更なる振興が必要です。

ビッグデータに体現されるデジタル革命は、社会のあり方の変容のみならず医療のあり方に大きな変革をもたらすことが予想されます。ウェアラブルデバイスにより自分の健康状態をモニターし、PHR (Personal Health Record) を用いて自己の健康情報を一元的に管理することが可能となります。インターネットの普及により医療情報の非対称性が是正され、医療においては患者の主体的選択が尊重されると同時にそれを社会が支える「自律と共生」が重要となります。人生 100 年時代の医学・医療は、キュアの実現のみならず、疾病前状態の段階におけるより精密な予測と個別化予防から、個々人の希望と価値観に応じた人間らしいケアに至るまで、100 年の一生に亘って、人々の自立と生き生きとした豊かな人生に寄り添うものとなることが期待されています。

このように、少子超高齢社会の我が国で医学、医療、社会の連携と連帯による新しい生活様式がますます求められている状況の下、第 31 回日本医学会総会は、「ビッグデータが拓く未来の医学と医療〜豊かな人生 100 年時代を求めて~」をメインテーマとして、医師、その他の医療職者、研究者、学生、そして一般市民が参加し、開かれた議論の場として開催いたします。

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