役員インタビュー

栗原 敏 副会頭

略歴

1971年 東京慈恵会医科大学医学部卒業

1978年 英国University College London生理学教室 留学

1979年 米国Mayo Clinic薬理学教室 留学

1980年 東京慈恵会医科大学第二生理学教室 助教授

1986年 東京慈恵会医科大学第二生理学教室(現、細胞生理学講座) 教授

2001年 東京慈恵会医科大学 学長(2013年まで)

2001年 学校法人慈恵大学 理事

2003年 学校法人慈恵大学 理事長(現在に至る)

2012年 東京慈恵会医科大学 名誉教授

幅広い視点から生命を見つめる、自分の専門を振り返ってみる
どのように医療に還元していくか、どんな研究倫理で進めていくか…
考えを深められるよい機会に

「豊かな人生100年時代…」“豊かに”とはどういうことなのかみんなで考えよう

栗原 敏 副会頭

──明治35年から営々と続いてきたこの医学会総会の存在意義・開催意義はどのようにお考えでしょうか?

発足当時は大学の医学者が中心となって開催されていた医学会総会ですが、時代が変わり、いまは開業の先生方にも入っていただいて情報を共有して切磋琢磨しています。

現代はZoomなどのWEBにて情報交換ができますが、本当の意味での情報の伝達は、言葉よりも直接会って伝えられることの方が多いと言われています。人との交わりによって新しい文化が生まれてきているので、だからこそ医学会総会を開催する意味はあると思います。

──「ビッグデータが拓く未来の医学と医療~豊かな人生100年時代を求めて」がメインテーマとなっていますが、このことについてお考えをお聞かせ願えますか?

ビッグデータが蓄積されていろいろなエビデンスが出てくるのは素晴らしいことだと思いますが、まず、きちんとしたデータが集積されてビッグデータが作られて活用されるわけです。確かな基礎的な研究が行われていないと意味がなくなってしまう…砂上の楼閣ですよね。研究をきちんと行い、確かな研究結果を積み重ねていくことが最優先だと思います。

──基礎の先生らしいお言葉ですね。

そういうわけでもないですが(笑)

それから「豊かな人生100年時代…」ですが、“豊かに”とはどういうことなのかみんなで考えた方がいいと思います。

私の専門は生理学(生命の理)なので、基礎医学の中でも根幹をなすものだと思っています。構造(structure)と機能(function)、生理学研究にはこの2つが両輪として重要だと思います。また、生理学は生体のメカニズムを解明するだけではなく、生命について深く考えることも重要で、これは生命哲学に通じるものがあります。諸先輩は、今後の生理学はどうあるべきか、生命科学がどうあるべきか、医学・医療はどうあるべきかなどについて、語り合い、考えてきました。今は考えるより早く研究成果を出すことが重視される傾向にあるので、生命について思索することは若い人にはあまり好まれないかもしれません。しかし、生命を深く見つめて考えることが生理学では重要ですので、いつの時代でも基幹の学問だと思っています。

100年生きるために欠かせない医療。医療者が学び合い、高め合う場に。

栗原 敏 副会頭

──副会頭としてのお考えや抱負をお聞かせください。

私の他にも副会頭が5人いらっしゃいますので、それぞれご自分の持ち分のところで特徴を出して会頭を支援していければと思います。

私は、100年豊かに生きるためには“生命哲学”が必要だと思うので、そういうものを入れていただきたいと申し上げています。100年生きるためには、医療はかかせないですし、現にコロナ禍において、医師や看護師不足が大きな問題になっています。どういう医師を育てるか。いろいろなことをきちんと学び、高い教養を身につけた医師が育ってほしいと思いますし、その人たちが医療を支えることが大事だと思います。そのようなことを考え、学び合う総会になればうれしいです。

──そのような方々も医学会総会に参加していただいて、横断的な知見を得ていただくのも大事ですね。

そうですね。学問が広く多様になってしまったので、新聞などでは深いところはわからない。医学会総会を機会に、幅広い視点から生命を見つめる、あるいは自分の専門を振り返ってみる、どのように医療に還元していくか、どんな研究倫理で進めていくか、そのようなことを考えるいい機会ではないかと思います。

私も卒業してすぐの頃、医学会総会があって展示を観に行きました。そこで驚いたのが、我々の学祖が〈セント・トーマス病院医学校へ留学し極めて優秀な成績で帰国した〉と紹介され、優等生に授与されたメダルが飾ってあったのです。学生の時に教えてもらっていなかったので医学会総会の展示で学祖・高木兼寛について学びました。このような灯台下暗しということがあるので、幅広く多くの方に様々な情報を提供するという意味でも、医学会総会の意義は大きいと思います。

──重要な役割のひとつですね

そうです。それから、コロナ禍でもあるので講演に直接参加ができない場合があると思いますが、WEBやオンラインなどで情報を配信する予定ですので、それらを利用して多くの皆さんに参加していただきたいですね。

我が校(東京慈恵会医科大学)の建学の精神は「病気を診ずして病人を診よ」ですが、人の幸せを願わない医学・医療などあり得ないと思いますので、我々も患者さんの立場に十分注意すべきだと思っています。日本医学会の門田会長も「専門分化した勉強だけでなく、コロナのようなことが起きた時は全体を診る医学が必要ではないか」とおっしゃっています。本当にその通りだと思います。

──先生のご専門は資料によりますと「筋肉生理学、心筋及び骨格筋の興奮収縮連関機構、特に細胞内Caイオンと収縮・弛緩の関係」となっておりますが、わかりやすく教えていただけますか?

難しくないんですよ(笑)心臓はなぜ拍動しているか。心臓の拍動にはカルシウムイオンが重要、ということはそれまでの研究でわかっていたことなのですが、心筋細胞の中の微量なカルシウムイオンをどうやって測ったらいいかが問題となりました。測るためには指示薬が必要ですが、イクオリンという下村(脩)先生が発見した発光タンパクが、微量なカルシウムイオンと結合すると発光するのです。イクオリンを細胞を傷害しない微小なガラスピペットを使って細胞の中に注入して刺激します。すると、収縮が起こる前にカルシウムイオン濃度が急激に高くなる。膜が刺激されると興奮してカルシウムイオンが細胞内に増えて、増えたカルシウムイオンが細胞内の収縮を調節している蛋白質に結合して収縮が起こる、という一連の事象が明らかになったわけです。私はそのような研究をしていました。

不整脈の一部は、細胞の中のカルシウムイオン濃度が異常に高くなって起こるものがあります。そのような不整脈の原因の解明に、この研究が役に立ったということはありますね。カルシウム感受性を増強する強心薬の開発にも役に立ちました。

メディア関係者もぜひ参加し、得られた情報を確かめてほしい

栗原 敏 副会頭

── 一般の方々向けにも博覧会を開催します。市民公開講座の企画もございます。これらの企画にはメディアの力は重要だと思います。どのように伝えてほしい、どのように関わってほしいなどございますか?

正しい情報を伝えていただきたいと思います。また、現在種々の情報が比較的手軽に手に入るようになってきましたが、得られた情報を、医学会総会に参加して、講演を聞いたり、展示を見たりして実際に確かめていただきたいと思います。医学会総会はそのようないい機会だと考えています。

──ご趣味やリフレッシュ法をお聞かせ願えますか?

50歳を迎えた頃、このまま趣味を持たないと老後が寂しくなるので何かやりたいと考えました。手軽に、一人で、人に迷惑をかけないで、あまりお金がかからないものをと考えたのです。学生時代にクラシックギターの美しい音色に魅せられたことを思い出してクラシックギターを始めました。左右の手を動かして脳に刺激を与える、音符を読むなど脳の活性化にもいいと考えましたし、良い楽器を探すことも楽しみです。

今はあまり時間が取れなくてさぼっていますが、疲れていてもギターの音に癒されています。初心に戻って正しく弾くことを心掛けて、少しでもギターと共に過ごす時間を大切にしています。就寝前に必ずCDで好きな曲を聴いていますが、ジャンルは問いませんよ。

──本日はご多忙な中、お話しを聞かせていただき有難うございました。

インタビュー日:2021/08/19
聞き手 長瀬 淑子(事務局アドバイザー)

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