役員インタビュー

門脇 孝 準備委員長

略歴

1978年 東京大学医学部医学科卒業

1980年 東京大学医学部第三内科

1986年 米国国立衛生研究所糖尿病部門客員研究員

2003年 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授

2011年 東京大学医学部附属病院病院長(~2015年)

2018年 東京大学大学院医学系研究科糖尿病・生活習慣病予防講座特任教授

2020年 国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長

医学会総会のテーマを深く掘り下げつつ、
①ハイブリッド開催
②さらなる「男女共同参画」の推進
③「U40(40歳未満)」による企画
に注力して準備を進めています!

今後の新しい医学医療についてメッセージを発信する大事な総会

門脇 孝 準備委員長

──明治35年から続く医学会総会は今回で第31回を迎えますが、今回、準備委員長の重責を担っておられる門脇先生に、医学会総会の魅力と意義、ご苦労されている点などについてお話しを伺いたいと思います。まず、準備委員長として今回の医学会総会に対するお考えについてお話しいただけますでしょうか。

──明治35年から続く医学会総会は今回で第31回を迎えますが、今回、準備委員長の重責を担っておられる門脇先生に、医学会総会の魅力と意義、ご苦労されている点などについてお話しを伺いたいと思います。まず、準備委員長として今回の医学会総会に対するお考えについてお話しいただけますでしょうか。

第31回日本医学会総会の基本理念は「ビッグデータが拓く未来の医学と医療~豊かな人生100年時代を求めて~」と定めています。ちょうど来年、日本医学会が120周年ということもありまして、節目の一つになり意義深いです。

そしてこのたびの新型コロナウイルスという地球規模の感染症の広がりによって人類の持続可能性を考えた場合、やはり医学医療にとっても大きな転換点になりましたね。これは、気候の変動や環境破壊により必然的に出てきている問題で今後も繰り返されていくと思います。そういう意味で、「ウィズコロナ」の出発点となる、今後の新しい医学医療についてメッセージを出す大事な総会だと思っています。

もう一つ、日本が世界にも類を見ない長寿国となり、“人生100年時代”を文字通りテーマとして掲げることができるのも大きな転換点だと思います。医学医療あるいは保健や福祉も含めた良い仕組みを、少子・超高齢社会の中で持続できるかという正念場です。“人生100年時代”を迎え、社会には将来の自分や家族の健康、将来の暮らしや生活に大きな不安もあり、その中で医学医療に携わる者と市民が「豊かな人生100年時代を求めて」というテーマで語り合う、とても大切な節目なのです。

──そこでビッグデータの活用は大きな意味があるのですね。

そうです。

「ビッグデータが拓く未来の医学と医療」と掲げたのは、医学には基礎・臨床・社会医学がありますが、基礎医学の点で見ると、ゲノムや細胞に関して膨大な量のデータが集積され、今後、指数関数的に更にデータが集積されていきます。それらよって生命の神秘を解き明かす大きな可能性が秘められています。

社会医学でいうと、今後の医療提供体制を考える上でもデータベースは、特定健診・保健指導の予防医学に関するデータから、医療に関係するデータ、介護に関係するデータまで一気通貫で解析し、より良い人生100年時代に活用されることが期待されます。

臨床医学を考えても、AI、IoTやロボットを取り入れることにより、医療の効率化とともに医療者と患者の心が通じ合う豊かな医療の実現が期待されます。

地球環境や少子高齢化という持続可能性の分岐点に来ている現代において、ビッグデータを活用することで明るい未来を切り開くことができるか、それが私の一番の問題意識です。ウィズコロナで「変わる」・・・「変わる」がキーメッセージです。

──準備委員長としての心構えについてお聞かせください。

準備委員長の役割は会頭の下にあって、副会頭の先生方にご指導いただきながら、医学会総会の準備全体を統括することで、実務上大変大きな責任があります。組織委員会は医学会総会準備の上でもっとも根幹にある委員会で、会頭、副会頭6名、準備委員長、そして大切な10の委員会のそれぞれの委員長、幹事長から構成されています。準備委員長は全体を俯瞰し、各委員会の活動の方向性や委員会同士の活動の調整を行います。また、組織委員会と事務局を繋ぐ役割も担っています。

──準備委員長として特に腐心されている企画について教えてください。

3点あります。

1つ目は開催様式です。「ウィズコロナ」をふまえ、ハイブリッドで行います。感染状況が良ければリアルとバーチャルの割合の“リアル”を多くできます。今回は、会場に来ていただける方はぜひ来ていただきたい。加えて、これまで遠方のため来場できなかった方にもバーチャルで参加していただくということで、選択肢が広がって、より多くの方が参加していただけるよう、準備しているところです。医学会総会での様々な単位の認定もWEB参加でできるようにします。

また、これまで海外から医学会総会に参加していただくことはできませんでしたが、今回はWEBで気軽に参加していただけますので我々はラッキーです。ウィズコロナになって、新しい画期的な内容になっていくのではないかと思って、チャレンジングですが、準備委員長としてそのための準備をしっかりと進めていきたいと思っています。

2点目は、今回、春日会頭のお考えにより「男女共同参画等委員会」が新設されました。考えてみれば、もっと早くからあるべき委員会ではなかったかと思いますが、それだけ我が国の男女共同参画が遅れているということでもあり、今回、日本医学会総会として、「男女共同参画」、「ダイバーシティ」の明確なメッセージを出したいと思っています。

──女性医師が増えており、30代では30%を超えています。

そうですね。比率が上がっているにも拘わらず、女性医師が十分に医学・医療の中で活躍できているかというと、様々なハンディキャップが取り払われていません。具体的には、すべての委員会にできるだけ女性を登用する。学術プログラムの中に、演者・司会の女性比率をできるだけ高めたい。目標は50%ですが、少なくとも30%以上は達成したい、と考えています。

3点目は、これまでの日本医学会総会において出席者の年齢は比較的高かった。でも、これからの医学・医療の未来を切り開くのは若者です。医学会総会は個別の専門分野ではなく横断的に医学・医療の進歩を知り、その在り方や倫理について考えるまたとないチャンスと思っています。若者には“参加”だけではなく、主人公になってもらおうと「U40(アンダーフォーティ)」を作って、そこで10近い企画をお任せしています。また、学生企画も進めていますので、楽しみにしていただければと思います。反対に「O75(オーバーセブンティーファイブ)」の登録枠も作りますので、高齢者にも優しく(笑)、世代間の対話に繋がる医学会総会にしたいですね。

市民と医療・研究者が実際に対話できる場に

門脇 孝 準備委員長

──若い方向けに参加しやすい登録料金に設定していますね。

はい。学生は無料ですし、若手医師は10,000円(現地+WEB参加)あるいは7,000円(WEB参加のみ)です。かなり参加しやすいと思います。そのほかの特徴としては市民の参加に力を入れています。特に博覧会と銘打った一般向けの展示です。

これまでは学術講演の会場と展示会場は遠く、足を伸ばすのも大変でしたが、今回は工夫をして、丸の内・有楽町エリアに全部集約することができました。

第31回日本医学会総会では、学術講演、学術展示には3万5千名の参加者(学生も含め4万2千名)、博覧会や市民公開講座には50万名の市民の参加を予定しています。

──画期的なことですね!

そうです! 医学会総会開催日(2023年4月21日〜23日)とそれに先行して2週間ほど、丸の内・有楽町エリアを医学会総会一色にして、市民と医療者・研究者が実際に対話をする場となるよういろいろ工夫をしています。

──コロナ禍にあって、一般の方の医療への期待が非常に大きいと思いますが。

医療従事者に対するエールや期待がとても大きいですね。医療・医学に対する期待は2つあると思います。

新型コロナウイルス感染症で医療崩壊の危機に瀕する中で、医師・医療従事者が患者さんの命を守るために全力で治療にあたってきたということは、日本の医療の歴史に新たなページを加えたと思います。それによって医療従事者と市民の間の信頼ができてきたことが1つ。それからもう1つは、ワクチン・特効薬の開発によりこの社会の明るい未来への展望が持てるかどうかという分岐点ですので、その点でも医学・医療に期待が高まっていると思うのですね。

市民と医学・医療が非常に近くなっているこの時期に、これからのウィズコロナの時代について対話する社会的な意義は極めて大きいと考えます。

週に一度休日は皇居を2~3週走り、日曜昼からは『NHK囲碁』がリフレッシュ法

門脇 孝 準備委員長

──ここで先生の個人的なお話しを伺います。先生のご研究は綺羅星のごとく・・・紫綬褒章、日本学士院賞もお受けになっており、昨年はClaude Bernard Awardを受賞されましたね。

──ここで先生の個人的なお話しを伺います。先生のご研究は綺羅星のごとく・・・紫綬褒章、日本学士院賞もお受けになっており、昨年はClaude Bernard Awardを受賞されましたね。

私の研究の恩師が会頭の春日先生です。私はある特定の臓器というより“全身"に興味を持っていたので、糖尿病を選びました、糖尿病は患者さんとの対話や長いお付き合いが大事で、私に向いている。人と話すのがもともと好きなので、糖尿病という分野を選んだんです。

研究にも興味はあったのですが、まず良い臨床医になりたいと思い、研修医を終わってもすぐに研究を始めずに、糖尿病の臨床を一生懸命やっていました。そろそろ研究もしなくてはいけないかなというときに、春日先生がインスリン受容体がチロシンキナーゼ活性を有するという大発見をされてアメリカから帰ってこられた。その時にちょうど私が大学に戻る巡り合わせで、春日先生の「一緒にインスリン作用の全貌を解明しよう」の一言に感銘を受けて研究生活が始まりました。

研究にも興味はあったのですが、まず良い臨床医になりたいと思い、研修医を終わってもすぐに研究を始めずに、糖尿病の臨床を一生懸命やっていました。そろそろ研究もしなくてはいけないかなというときに、春日先生がインスリン受容体がチロシンキナーゼ活性を有するという大発見をされてアメリカから帰ってこられた。その時にちょうど私が大学に戻る巡り合わせで、春日先生の「一緒にインスリン作用の全貌を解明しよう」の一言に感銘を受けて研究生活が始まりました。

春日先生がおっしゃった3ヵ条があるんです。

  • データは虚心坦懐に観察しなさい。
  • 知的好奇心を大切に、未知の、できるだけ大きな課題に向かいなさい。
  • チャレンジのためには人一番働かなければいけない。

春日先生の教えを守り、その後長い間、1月1日と8月15日以外は1日も休まなかったですね・・・。決して今の人にそれを求めてはいないですよ(笑)

──多くの公務を抱えて寝る暇もない毎日と拝察いたしますが、先生にとっての息抜きとは?

大学時代、陸上で1500mと5000mをやっていたので、今でも週に一度、10kmから15km走っています(笑)。皇居の周りだと1周5kmなので、2周から3周。15kmだったら・・・1時間半ぐらいで走りますね。フルマラソンも走ったことがあるのですが、目標は4時半を切ること。今は大会が中止になっているので、密かに練習しています(笑)。

文化的な趣味というと・・・囲碁かな。2段を持っています。今、対局はできないけれど、コンピュータ相手にやっています。日曜昼からの『NHK囲碁』を観ます(笑)。

──開催まであと1年半になりました。最後に一言お願いいたします。

準備委員長として4年間は長いと思っていたら、どんどんどんどん日が経っていきます。各委員会の委員長の先生方が医学会総会の重要性を鑑みて、とても一生懸命にやっていただいています。春日会頭の医学会総会への理想が高いので、その思いを実現したい。どうぞ多くの方々に登録していただき、そして会場へ足を運んでくださるようお待ちしております。

聞き手 長瀬 淑子(事務局アドバイザー)

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