役員インタビュー

新井 一 副会頭

略歴

1979年 順天堂大学医学部卒業

1980年 米国NIH(Laboratory of Neurochemistry, NINCDS)

1987年 自治医科大学第一生化学教室

1983年 順天堂大学医学部脳神経外科 助教授

1995年 米国フロリダ大学脳神経外科

2002年 順天堂大学医学部脳神経外科 教授

2008年 順天堂大学医学部付属順天堂医院院長

2011年 順天堂大学大学院医学研究科長・医学部長

2016年 順天堂大学学長

医学会総会開催の意義は「知の共有」

医学会、そして一般社会との「知の共有」も重要

新井 一 副会頭

──医学会総会の開催の意義をどのように考えていらっしゃいますでしょうか。

一言で表すと「知の共有」だと思うんですね。医学会総会は、我々医学会に所属している者がお互いに知識・情報を共有する場であると思っています。医師の中でもいろいろな分野の人がいますし、歯科医師、看護師、コメディカルの方々もいますね。それらの方々と情報共有・知の共有をしていくことが、医療・医学を進歩させるために非常に重要です。

医学、特に臨床医学を例にとると、それぞれがサブスペシャルティーに細分化しています。私のバックグランドは脳神経外科ですけど、脳腫瘍、脳血管障害、てんかん、機能外科、小児、脊椎・脊髄などに細分化されています。カッティングエッジな医療を目指すとどうしても細分化は避けられない訳ですが、若干、木を見て森を見ず的なところが弊害としてあって、いわゆる専門馬鹿になってしまい、医療・医学の進歩に必ずしも繋がらないように感じています。一歩引いて、全体像を俯瞰する視点が必要です。まさに、分化と統合が求められているように思います。その統合の作業を、医学会総会のような医療・医学に関わる全ての人が集まる場所で図れたら非常にいいのではないかなぁという気がします。

もう一つ重要なことは、我々医学会と一般社会との知の共有が必要で、今まさにこれが求められるように思います。その必要性は、今回のコロナ禍で我々も改めて感じているところで、医学会が社会と常に連携しながら情報共有・知の共有を図っていかなくてはなりません。今回の医学会総会ではそういう場面をたくさん設定していますし、社会全体で医療・医学に関する知の共有を図ることにつながるのではないかと思っています。

──今回はビッグデータに基づいた医療を考えることを大きな柱にしていますが、ビッグデータ、コロナ、パンデミック、非常に時期を得たテーマなのではないかと思うのですが。

そうですね、コロナで我々が経験し実践したことも広い意味で「ヘルスケアプロセス」だと思うんですね。2023年の医学会総会の副題は「豊かな人生100年時代」です。ご承知の通り、日本人の平均寿命は男女合わせた平均が84歳、また健康寿命が74歳です。どちらも世界のトップクラスですけれど、平均寿命と健康寿命のギャップが10年あり、これをいかに短くするのかが我々にとっての大きな課題です。それには何が必要なのか。健康維持、予防、疾病の診断・治療、その後の社会復帰、さらに介護・ケアなど様々な場面がある訳で、それらの全てがまさに「ヘルスケアプロセス」なんですが、次に進むためにはそこで得られた情報が統合・解析され、その結果が社会のシステムの進歩のためにフィードバックされる必要があります。

コロナも診断と治療で我々は戦っていますが、情報が集約化されることにより、次のステップに進むことができるはずです。医療・医学に関連する個々の情報がビッグデータとして蓄積されて次のステップに進む、すなわち「ヘルスケア・インフォマティクス(健康情報科学)」が、平均寿命と健康寿命の差を埋めるひとつのキーになるのではないかと思います。

2023年の医学会総会のテーマは春日会頭が練りに練ってお考えになり、そこに多くの人の意見が集約された結果決まりました。ビッグデータに基づいた医療は、コロナに関して世界中にいろんなデータが溢れている現状を考えると、まさに我々が直面する問題といえるように思います。何が真実か、今の段階では分からないことも多い訳ですが、データを集約して次の新規感染症、パンデミックに備える、そういうことが必要なのではないかと思います。

乞う、ご期待! 「学術プログラム」と「展示」

新井 一 副会頭

──コロナもなかなか収束せず難しい時期の開催となりますが、副会頭としての抱負をお聞かせください。

今回は東京での開催です。都内13の大学、4つの国立の研究センターと東京都医師会が一体となって“オール東京”での開催になりますが、数が多いので、各大学・各組織が当事者意識を持って当たることが非常に大事だと思っています。多くの方に参加していただき、多くの企業にも協力していただくことが総会成功の鍵になります。これまでの準備を着々と進めてきましたし、今後はペースを上げて前に進みたいと思います。

重要なのは、2つの柱「学術プログラム」と「展示」です。これをいかに良いものにするか、これまで多くの人々の知恵を出し合って検討してきました。私も多少なりとも関与してきたつもりです。春日会頭が指導力を発揮され、学術委員会や展示委員会によって非常に素晴らしいプログラムや展示内容が企画されているので、ぜひ多くの方に期待し観ていただきたいと思います。私も「学術プログラム」と「展示」の成功のために継続的に力を注ぎたいと思います。

──学術プログラムも徐々に決まり始め、網羅的な良いプログラムが構築されています。特に順天堂は学術展示・博覧会の中枢的な役割を担っているので、展示についてお聞きします。

まず一つは、会場が“東京駅周辺”であることを強調したいと思います。東京のまさに中心で1箇所でなく分散していますけれど、丸の内エリア全部が会場で、人の行き来がある中で展示博覧会が行われます。

開催の頃にはコロナが終息していることを大いに期待していますが、例えばオフィス街に勤めている人たちが休み時間にちょっと立ち寄ったりとか、もちろん家族連れが立ち寄ったり、オープンな形で計画が進んでいるので、ぜひ多くの市民の方にそこに参画していただき、医療・医学が今どうなっているのかをつぶさに観ていただきたいと思います。模擬病院もありますし、地域にあるクリニックを模したもの、「ヘルスケア」全般を取り上げ食べ物や運動など、あらゆる事柄を網羅的に取り入れて多くの方に楽しんでいただく企画になっています。お子さんに診断や治療を実際に体験してもらうコーナーもあります。そこでの体験から医学への道、医療従事者になろうと思ってくれるような形になると最高に素晴らしいと思いますね。

若い研究者の皆さんへ―実際に行ってみてわかることの多い海外留学に ぜひチャレンジを

新井 一 副会頭

──ここで、先生ご自身のお話しをお伺いいたします。NIHやフロリダで勉強されてきていますが、若手研究者に一言お願いします。

当時の上司の裁量によってアメリカに2回、また国内でも留学を経験することができました。上司には感謝しかないのですが、非常にいい機会をもらえました。海外から日本を見る、違うバックグランドの人と交わる、そういう体験は非常に重要だと思います。自分の脳神経外科医としてのキャリアの中で大きな役割を果たしたと実感しています。

最近心配なのは、コロナ以前からですが日本から海外への留学者が減っているということで、これはどうも医学分野だけではないようですが決していいことではありません。自ら進んで海外に行っていろんな人と出会うことが大事だと思うので、若い人にはぜひ海外に飛び出て欲しいと思います。日本が成熟してきて、日本に居ても十分にやっていけるということや、インターネットなどで情報がどこにいても得られるといった環境の変化もあるんでしょうが、やはり実際に行ってみてわかることがたくさんあるのでぜひチャレンジして欲しいです。

──ご多忙な毎日でいらっしゃいますが先生の趣味や気晴らしは?

僕は医学部時代ラグビー部だったんです。ラグビーって意外と頭脳プレイなんですよ。フォワードだったのでスクラムでしょっちゅう怪我をしてました。歯も無くなりましたし。医学の勉強はそこそこに、英文のラグビーコーチング本を読んだり、かなり真剣にやりました。東医体(東日本医科学生総合体育大会)で5連覇…6連覇したかな。

今はコロナで思うようには動けませんが、ジムへ行って体を動かしたりジョギングしたり。たまにゴルフにも行きますが、運動は健康のためにも心がけてやっています。運動と認知症は関係あると言われていますので、ボケないために(笑)。最近、筋肉の量が認知症の発症と関連するとかいう論文も出ているので、一生懸命筋肉を付けています。

──文化的方面では?

本は乱読ですが好きで、デジタルではなくて本、文字が好きです。今ハマっているのは北方謙三の『チンギス紀』。2〜3ヵ月に1冊出るんですよ。待ってました!です(笑)。なかなかオフィスや家でも読めないけれど、移動の時の新幹線で読むのが楽しみで。カバンにはつねに本を入れていますね、重いけど。老眼鏡掛けながら読んでます(笑)。

「人生100年時代」には、社会的な構造を含めてすべての人が参画していく。
そこにビッグデータが必要です

──総会を取材するメディアにご要望はありますか?

ぜひ大きく取り上げていただきたい。テーマが何を意味しているのか十分理解していただいて、そこを伝えていただければありがたいですね。人々が健康でいつまでも元気に暮らしていける人生100年時代は、医者一人の力では達成できないし、社会全体が取り組んでいくこと、社会の構造を変革していくことが必要です。ただ、私を含め医療・医学に関わるすべての人々が、当事者意識をもって参画していくことがまずはポイントになります。そして、そのキーワードがビッグデータになります。そこに注目していただき、アピールの一つとしてほしいです。大きなうねりとして…。

今回コロナで医療・医学が大きく変わるであろうことを私達は予感しています。オンライン診療などの遠隔医療はその筆頭ですが、それ以外にも色々な変化が生じるはずです。

希望的観測ですけれど、開催の頃コロナは終息しているだろうし、2023年日本の医学界が新しいスタートを飾るにふさわしい医学会総会になると思いますので、そこをぜひ注目していただきたいですね。

──本日はご多忙な中、お時間を取っていただき、質問にお答えいただいて有難うございました。

インタビュー日:2021/08/30
聞き手 長瀬 淑子(事務局アドバイザー)

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